昔悩んだことが、今になってはちっぽけに感じたり、
馴染めなかった小説が面白く感じたり、
あの頃は背伸びして飲んだウイスキーが、今では本当においしかったり。
人間は往々にして、自分の成長や変化を内側に
見出すことはできず、何かと比較したり、顧みることで
感じることが多いような気がします。
昔は分からなかった先輩方の助言が、今になって痛いほど分かる、
そんなシーンが増えてきました。
時を経て分かる言葉があります。
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今も青二才ですが、今よりもずっと若い頃、
飛び込み営業をしていた時代がありました。
決して優秀ではない営業マンの私は、日に何十件と
ビルからビルを回り、名刺を置いてくるのですが、
一向に契約などとれません。
そのうち、私の安靴のソールが磨耗して、滑り止めがなくなって
くるんです。雨の日に、ビルのロビーなんかで、本当に滑って
転ぶんですね。 靴を買うお金などありませんから、カッターで
ソールに刻みをいれると、しっかりと機能することを知りました。
そして、ソールと靴本体を接着している接着剤がとれ、
靴底がベロンととれてしまう、それでも、ボンドでとめて
はくんです。接着剤と安い合皮がまざってボロボロになって、
もう修復が利かなくなって、さてどうしようかと。
靴底をすり減らすというのは、私にとって慣用句でもなんでもなく、
本当に起きる出来事でした。
スーツも同じでして、バーゲンで買ったスーツ一張羅で
毎日営業行くもんだから、ズボンもジャケットもテロンテロン
なんですよね。
今考えると、苦しい時代だったと思うんですが、当の本人は
そうでもなく、貧しいことよりも、ビジネスマンとして
結果を出すことや、力をつけることにプライオリティを置いていました。
当時の経営者はとても厳格で、それはそれは、雷がよく落ち、
本当に鍛えられました。(感謝)
半人前の私のスキルや精神力では、理解できないことや
今思えば恥ずかしい話ですが、理不尽に感じたことも多々ありました。
それでも、自分を説得し、消化しようと努めました。
高いモチベーションを維持し、自分に落とし込もうと、
様々な観点で解釈を試みました。
しかし、ひとつだけ最後まで解せぬことがありました。
いつも、厳しく指摘をされていたことであり、とてもシンプルなこと。
「身だしなみをきちんとしろ!」
どれだけ逆立ちしても、新しい靴を買うお金も、スーツや
シャツを買うお金はありません。ましてや、そんな中、
必死に走り回って工夫をして、なんとか維持していると
自分では思っていました。
「だったら給料をあげてくれれば買えるのに」
決して考えてはならない、と心に誓った思いが過ぎります。
でもすぐに、押し殺して、いつか買えるようになったら買おう、
そう考えるようにしました。しかし、残念ながら、結果的にその答え、つまり
私なりの理解は、会社を退職する日まで得ることはできませんでした。
あれから何年も月日が流れ、私は経営者になりました。
乱雑で無頓着な私でも、身だしなみをきちんとすることの重要性は、
経験を積むにつれ、それなりに理解できるようになりました。
ましてや、経営者として商談する機会も増え、
分相応の格好をすべきことも、よく分かりました。
しかし、あのことばに対する明確な解釈、はっきりとした答えは
見つけることはできませんでした。いつしか疑問ではなくなり、
大昔に習った英語の文法のように、そうすべきだから、
そうする、といった具合になっていました。
その答えを、先日、全く予期せぬシチュエーションで、ある方から頂きました。
このことについて質問したわけではありません。
ある打ち合わせの際に、その方がおっしゃった言葉に、
衝撃が走り、あの頃の記憶が鮮明に蘇りました。その言葉とは、
「ファッションとは礼節なんです。」
ファッション業界、特にメンズのクロージングラインを中心に
ブランドの展開をされており、ご自身の名を冠した
ブランドが、伊勢丹をはじめ、全国の百貨店に並ぶような方の言葉。
当然、毎月雑誌などにも、多数出られており、日々トレンドを
創っていらっしゃるような方です。
ファッションのこと、モノづくりのこと、ビジネスのこと、
ありとあらゆることについて、あまりにも知り尽くした方のひとこと。
「ファッションとは」という壮大な問の答えは、「礼節」でした。
なんてシンプルで、奥深い、「答え」なんだ、と思いました。
時を経て、すべてが解決する瞬間でした。
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予想外に長くなったので、続きは次回。に致します。

