先日、デザイナーを目指す専門学校の学生さんに向けて、キャリアについてお話しする機会をいただきました。
専門学校の先生から「実際に企業で働いている人に、キャリアの話をしてほしい」とご依頼をいただいたのがきっかけです。
私はデザイントランスメディアで、入社3年目のデザイナー兼マーケターとして働いています。
「デザイン」と「マーケティング」、この2つの領域を掛け合わせて考えることが、日々の仕事の中心にあります。
今回の講義で取り上げたテーマは、「デジタルマーケティングとデザイン」。
なぜこのテーマを選んだのか、何を伝えるべきだと考えたのか、どう準備し、終えてみて何を感じたのか。
自分自身の思考の整理も兼ねて、レポートとして残しておきたいと思います。
なぜ、デザインを学ぶ学生に「マーケティング」の話をするのか
現場で働くなかで、デザインの良し悪しがマーケティングの視点で決まる場面が何度もあります。
同じ商品を売るECサイトでも、バナーや商品ページのデザインが変わるだけで、クリック率や購入率が大きく動きます。
しかもデジタルの世界では、その変化がすべて数字で見えます。
つまり、デザイナーがマーケティングを知っているかどうかで、成果物の価値そのものが変わってしまう。
これは、日々クライアントの課題に向き合う中で実感していることです。
私自身、実務のなかでマーケティングの視点を身につけたことで、提案の説得力も、成果につながる確率も、明らかに変わったと感じています。
デザインとマーケティングは切り離して考えるものではなく、両輪として機能して初めて、成果に結びつく施策になる。
だからこそ、これから現場に出ていく学生さんにも、「作る技術」だけでなく「なぜ作るのかを考える視点」を、できるだけ早い段階で知っておいてほしいと考えました。
伝えるべきだと判断した内容
今回の講義の中で柱にしたのは、次の4つです。
1|デジタルマーケティングは、想像以上に大きく、成長している市場である
まずは業界の規模感を、感覚ではなく数字で伝えることにしました。
※講義で使用したスライドより抜粋
2024年の媒体別広告費を見ると、WEB広告はすでにテレビ・新聞・雑誌・ラジオを合わせたマスコミ四媒体の合計を単独で上回っています。
WEB広告費がすでにマスメディア全体を上回り、市場が拡大し続けているという事実は、「マーケティングは自分に関係ない」という思い込みを外すうえで効果的だと考えました。
2|マーケティングの現場では、デザインが売上に直結している
デザインを「見た目を整える仕事」ではなく、「見た人の感情と行動を変える仕事」として捉え直してもらうこと。
そのうえで、アートとデザインの違い(自己表現か、意図を持ったコミュニケーションか)にも触れました。
※講義で使用したスライドより抜粋
ポスターを見て「行ってみたい」と思う。
バナーを見て「クリックしたい」と思う。
パッケージを見て「手に取りたい」と思う。
LPを見て「買いたい」と思う。
――これらはすべて、デザインが生み出している感情と行動です。
この一枚を見せながら、「デザインは見た目の話ではなく、人の心を動かす設計である」ということを、まず腹落ちしてもらうようにしました。
3|「指示通り作る人」から「課題を解決する人」へ
作れるだけのデザイナーは、AIの進化もあって飽和しつつあります。
これから価値が上がるのは、課題を理解し、その解決策としてデザインを提案できる人材です。
ここは今回いちばん伝えたかった部分で、実際のECサイト運用の事例を使い、デザインがどのように数字へ影響しているのかを具体的に見せました。
※講義で使用したスライドより抜粋
軸にしたのは、「売上 = アクセス数 × 購入率 × 平均客単価」というシンプルな方程式です。
アクセス数は「サイトに来たユーザーの人数」、購入率は「サイトに来た人のうち購入に至る割合」、平均客単価は「1回の購入あたりの平均金額」。
この3つの数値それぞれに、デザイナーの仕事がどう関わっているのかを分解して見せることで、「デザインが数字を動かしている」ことを実感してもらう狙いです。
※講義で使用したスライドより抜粋
たとえば「アクセス数を増やす」という一つの目的だけでも、SNS広告、デジタルサイネージ、テレビCM、チラシ、ファッション雑誌への掲載、ポップアップショップなど、施策は多岐にわたります。
そのなかでSNS広告を例に、「○○〜○○代男性へピンポイントで配信する」といったターゲティングの精度がデジタル広告ならではの強みであること、そして同じ予算・同じターゲットでも、バナーや動画のデザイン次第でクリック率が大きく変わることを伝えました。
デザイナーの役割は「作る」ことだけでなく、その一枚が数字にどう影響するかを理解したうえで作ることにある、というのがこのパートの結論です。
4|AI時代に、デザイナーとして生き残るために必要なこと
AIが「作る力」を持った今、人間に残るのは「何を・なぜ作るかを考える力」です。
AIを恐れるのではなくパートナーとしてとらえること、そのためにも課題を整理し、意図を持って指示できることが大事だと伝えました。
※講義で使用したスライドより抜粋
マーケティングを学ぶことで変わるのは、大きく3つあると考えています。
一つは「作るものの意図」―「かっこいいから」ではなく「このターゲットにこの配色が効く」と根拠を持てるようになること。
二つ目は「会話」―「誰に届けたい?どんな行動を起こしてほしい?」と、自分から聞けるようになること。
三つ目は「価値」―「クリック率が上がった」と、数字で自分の成果を語れるようになることです。
この3つが揃うことで、成果が出せる、課題が解決できるデザイナーになれる。
ここが、今回の講義全体を通して一番伝えたかった結論です。
この4つを通して最終的に届けたかったメッセージは、「制作スキル × マーケティングの思考 × AIの活用」の掛け算こそが、これからのデザイナーの武器になるということです。
これは学生さんへのメッセージであると同時に、日々私たちがクライアントワークの中で大切にしている考え方でもあります。
実際の準備
準備でいちばん時間をかけたのは、「専門用語をどう翻訳するか」でした。
現場では当たり前に使っている「CTR」「LP」「セグメント」「客単価」といった言葉も、学生さんにとっては初めて聞く単語かもしれません。
伝わらなければ意味がないので、一つひとつを日常の体験に置き換える作業を繰り返しました。
たとえば――
- 「デジタルマーケティングとは」→ 好きなブランドのInstagramを見て「これ欲しい」と思った、あの瞬間の裏側
- 「客単価を上げる施策」→ 「あと〇〇円で送料無料」でつい1点足してしまう、あの体験
- 「マーケティングとは」→ 特定の飲料が想起させる「青春」のイメージのような、コンセプト設計
また、抽象論だけで終わらせないために、実際に運用に関わっているECサイトを題材にした事例を用意しました。
「売上 = アクセス数 × 購入率 × 客単価」という方程式を軸に、それぞれの数値を上げる施策のどこにデザイナーの仕事が関わっているかを、具体的に分解して見せる構成です。
さらに、一方的に話し続けるのではなく、要所で問いかけを挟むことも意識しました。
「マーケティングって聞いたことある人?」「ネットショップで買い物したことある人?」「2つのバナー、どっちのジムに通いたい?」
手を挙げてもらうことで、学生さん自身に考えてもらう時間をつくり、対話しながら理解を深めてもらうことを意識しました。
講義を終えて感じたこと
終えてまず残ったのは、「伝えることの難しさ」でした。
マーケティングの必要性を言葉にして、まだ働いた経験のない学生さんに届く形で伝えるのは、想像以上に難しいことでした。
自分のなかで当たり前になっている感覚ほど、教える側に立って初めて、言語化して伝えることの難しさを痛感します。
そして、話のなかで「実際に働いてみて感じたこと」や「経験にもとづく話」のは耳を傾けてくれる学生さんが多かったということも印象的でした。
たとえば私は、働き始めてから「インプットの大切さ」を強く実感するようになりました。
机に向かって勉強することも大事ですが、それだけではありません。
実際に流行っているお店に足を運んで、どんな人が来ているのか、どんな商品を、どんな見せ方で売っているのかを自分の目で観察する。
これも立派なインプットです。
これは、私の上長が日常的に学生さんに伝えていることでもあります。
そうした「現場で働く人のリアルな行動」を紹介したとき、学生さんの反応が良かったように感じました。
デザインを学んでいる学生さんの技術やセンスは、そのまま現場で武器になります。
そこに「なぜこのデザインにするのか」という視点と、机の外に広がる世界へのインプットが加わっていけば、「指示通り作る人」から「課題を解決できる人」へと変わっていくはずです。
そして、こうした「デザインとマーケティングを横断して考える力」は、学生さんに向けてだけでなく、私たちが日々のクライアントワークの中で提供している価値そのものでもあります。
今回の講義を通じて、その考え方を改めて言語化する良い機会になりました。
